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赤ちゃんの目の病気

神戸大学名誉教授 山本 節

赤ちゃんは、大人と異なり目の異常を訴えることが少ないので、うっかりすると異常に気付かず重大な病気を見逃してしまうことがしばしばあります。

現在、人の情報の85%以上は目から入ると言われています。将来、社会に出て十分に働けるように、生まれた時から赤ちゃんの目の健康に十分注意するよう心掛けてください。特にお母さんには赤ちゃんの目の病気について知識を深めていただきたいと思います。

目の病気は、予防することが難しく、いかに早く発見するかが極めて重要です。異常に気付いたら早く眼科の専門医の診察を受けましょう。巷には、間違った情報がはびこっています。過ちのないようにしてください。

母親 赤ちゃんの目の病気には、どんなものがありますか。
医師 乳幼児によくみられるのは、さかさまつげと斜視です。
また、いろいろな眼瞼の異常で来院する場合もあります。ほかに、そんなに多くはありませんが、未熟児網膜症、先天白内障、先天緑内障、網膜芽細胞腫、先天鼻涙管通過不全などがあります。
また弱視のお子さんは、対応が早いほど視力の回復が望めますので、早期発見に努めてほしいと思います。
母親 赤ちゃんの目の病気は、どのようにしてみつけたらよいでしょうか。
医師 赤ちゃんは話すことができませんから、お母さんの観察だけが頼りです。 ふだんから赤ちゃんの目をよく見て、つぎのような症状に気がついたら、すぐに眼科医にみせてください。
  • 目やにがたくさんでる
  • 白目が赤い
  • 普通にしていても涙が多くでる
  • いつもまぶしそうにしている
  • 目がよっている。目付きがおかしい
  • ひとみが白く濁ってみえる
  • ひとみが黄色く光ってみえる
  • 動く物を目で追わない。まばたきしない
  • 目を細めたり、近づいて物を見る
  • 頭を傾けたり、横目で見たりする
母親 生まれたばかりの赤ちゃんの目で、心配な病気を教えてください。
医師

新生児の目の病気としては、昔は淋菌性結膜炎が恐れられていました。
これは、生まれる子が産道を通る時に淋菌に感染して起こるもので、生後2、3日で発病します。膿のようなめやにが出て、ほうっておくと失明することがあります。
しかし、この病気は、出産後すぐにクレーデ法という硝酸銀の点眼が行われるようになってからは、ほとんどみられなくなりました。最近では抗生物質の点眼が一般的です。

眼球の断面図

母親 未熟児で生まれた赤ちゃんが、失明することがあるそうですが、どうしてですか。
医師 目の外観(左目) 胎児の網膜は妊娠9ヵ月でほぼ完成されますが、それ以前に生まれると網膜の血管が未完成の状態です。
未熟児の保育上、必要な酸素をたくさん与えられたりすると、その未完成の網膜に異常が起こって、視力が悪くなったり失明したりすることがあるのです。これを未熟児網膜症といいます。
母親 未熟児網膜症を治すことはできないのですか。
医師 この病気になるのは未熟児のごく一部ですし、大部分の未熟児網膜症は自然に治ってしまいます。しかし、中には急に進行する例があり、この場合には光凝固や冷凍凝固という治療法をおこないます。
光凝固は完全な治療法ではありませんが、かなりの程度まで弱視や失明を防ぐことができます。
母親 ときどき、めやにの出ている赤ちゃんがいますが、めやにくらいなら、ほうっておいてかまいませんか。
医師 赤ちゃんのめやには、軽いものなら自然に治ることもありますが、時に重大な結果をまねく場合がありますので、一応眼科医にみせてください。
母親 それはどんな場合ですか。
医師 涙器 めやにの多くは細菌性の結膜炎が原因で、たいていは目薬の点眼で治ってしまいます。
しかし、涙嚢炎から涙嚢周囲炎を起こしたり、ウイルス性の結膜炎はより重症ですし、病気で全身が弱っている時の結膜炎は角膜炎を起こす場合があり、治療が遅れると失明という最悪の事態をまねくことさえあるのです。
母親 めやに以外には、どんな症状がよくみられますか。
医師 目瞼内反(さかさまつげ) 白目の部分が赤く充血したり、涙が出たり、まぶしがったりという症状がよくみられます。これらの症状は結膜炎のほかに、俗に言うさかさまつげや先天鼻涙管閉塞という病気でも起こります。
さかさまつげは、下のまつげが内側に向かって生えているもので、成長とともに自然に治ることが多いのですが、ひどい時には手術が必要です。 先天鼻涙管閉塞の赤ちゃんは、生まれつき鼻涙管の通りが悪いので、涙やめやにが絶えません。
たいていはブジーという細い針金を鼻涙管にいれる治療でよくなります。
母親 赤ちゃんにも白内障があるそうですが。
医師 白内障 赤ちゃんのひとみが生まれつき白くにごっている場合があって、これを先天白内障といいます。
遺伝性のものと妊娠中の病気(風疹が有名)や薬などが原因で起こるもののほか、原因不明のことも多くあります。程度が軽ければそのまま経過をみますが、にごりがひどい時は、水晶体のにごりを取る手術をします。
そのままにしておくと視力の発達が遅れて、一生見えるようになりませんので、手術はなるべく早く受けてください。
母親 赤ちゃんの緑内障は、どのような症状でわかりますか。
医師 牛眼といって、角膜がひろがってにごり黒目が大きくみえるのが、先天緑内障の特徴です。この病気の赤ちゃんは、目の中の前房隅角に生まれつき欠陥があるため、眼球内に房水がたまり、眼圧が高くなって角膜が大きくひろがるのです。
まれな病気ですが、ほうっておくと失明するので、なるべく早く手術する必要があります。
母親 ほかにどんな病気に気をつけたらいいですか。
医師 網膜芽細胞腫という小児がんの一種があって、ひとみの奥がネコの目のように黄色く光る症状で気づかれます。非常にまれな病気です。
治療は腫瘍が大きな場合、眼球摘出し、がんがこれ以上ひろがらないようにするしかありません。幸い初期に発見されると、放射線や化学療法で保存的治療がされます。
母親 斜視は大きくなれば治るとききましたが、本当ですか。
医師 調節性内斜視 赤ちゃんは鼻根部がひろがっているため、内側の白目の部分がかくれて寄り目のようにみえることがあります。これは仮性内斜視(みかけの斜視)といって、成長に伴って治ります。
しかし、本当の斜視は治療しなければ決して治りませんので、目つきがおかしいと思ったら勝手に判断せずに、必ず眼科医にみせてください。
母親 どんな原因で斜視になるのでしょうか。
医師 斜視の原因には、眼球を動かす筋肉や神経の異常、遠視、視力障害などいろいろあります。
遠視が原因の調節性内斜視の場合はメガネで治りますが、それ以外の斜視は手術をしなければ治りません。内斜視の手術は早い方がよく、遅れると視力がわるくなったり、両方の目でものを見る働きが発達しなくなります。
母親 注意しないと、赤ちゃんは弱視になることがあるといわれました。どうしてですか。
医師 遮閉法 子どもの視力は乳幼児期に発達しますが、その過程で物を見ることができない状態におかれると、視力の発達がとまってしまいます。
斜視、屈折異常(主に遠視)、何らかの理由で片目を使わなかったなどが主な原因となって弱視になります。弱視の治療には先にあげた原因の予防が大切です。また、屈折異常にたいして眼鏡矯正、健眼遮閉などの治療が行われます。
年長の子どもほど視力の回復が難しくなるので、お母さんは子どもの視力に十分な注意を払ってほしいと思います。
母親 赤ちゃんの目は、成長につれて見えるようになるのですか。
医師 子どもの目の発達 新生児の目は、大きさは少し小さいものの、大人の目とほとんど同じ形をしています。しかし、目の働きは未完成で、体が発育するにつれてだんだん視力がよくなります。
誕生直後から物を見つめる反応がありますが、2か月くらいで、両眼で物を見つめられるようになり、3か月くらいで動く物を目で追うようになります。
半分以上の子どもが、3歳で1.0見えるようになり、6歳になると大部分の子どもが大人と同じ視力をもつようになります。
母親 どうしてだんだん見えるようになるのですか。
医師 目はカメラと同じで網膜に像をうつしますが、それだけでは物は見えません。その像が視覚伝導路によって大脳に伝えられ、はじめて見ることができます。視覚伝導路は生まれた時は未完成で、常に物を見て刺激を与えられることによって発達します。 赤ちゃんは毎日、自然に物を見る訓練を積み重ねて、だんだん見えるようになるのです。
母親 視覚伝導路に刺激が与えられないとどうなりますか。
医師 何かの理由で物が見にくい状態におかれて視覚伝導路に刺激が与えられないと、赤ちゃんの視力の発達はとまって、目がよくみえなくなってしまいます。これが弱視です。

母親 どうしたら子どもの弱視が防げますか。
医師 両眼視 先天白内障、重症な眼瞼下垂などの廃用性弱視は、できるだけ早く手術して弱視を起こす原因をとりのぞき、それから治療をします。
また、赤ちゃんの眼帯は、長い間していると、視性刺激遮断弱視の原因になります。斜視弱視もできるだけ早い対応が大切で、治療が遅れるとそれだけ視力の発達が遅れ、回復が難しくなります。
母親 弱視はできるだけ早くみつけて治療することが、重要なのですね。
医師 斜視弱視は目の異常がみつけやすいのですが、困ったことに遠視性弱視や視性刺激遮断弱視は、まわりが気づかないで発見が遅れる場合が多いのです。
それでも両目が遠視の屈折性弱視は、動きが鈍かったりして見つかりますが、片目だけ遠視の不同視弱視はまず気づかれませんので、注意が必要です。
母親 片目が弱視でも、もう片方の目が良ければ不自由しないのではないですか。
医師 右目と左目で見た像を脳で一つにまとめることを両眼視といい、物の正しい立体感や遠近感をつかむ働きをします。両目とも視力が良くなければこの機能は発達しないので、不同視弱視の子どもは正しい見方ができなくなってしまうのです。
子どもの目の機能は6歳くらいまでにほぼ完成してしまいます。それ以後では治療の効果は上がりませんから、できるだけ早く弱視をみつける必要があります。
母親 赤ちゃんの目が遠視だと、なぜ弱視になるのですか。
医師 遠視と目の調節 遠視の目は網膜の後方でピントが合うため、ひどくなると近くの物も遠くの物も良く見えません。それで弱視になりやすいのです。
母親 どうしたら遠視がみつかりますか。
医師 赤ちゃんは、3歳になると視力が測れるようになります。
自治体の三歳児健診で視力検査が行われますので、受診すればお子さんの視力に異常がないか確かめられます。必ず3歳で視力検査を受け、異常があればすぐに適切な治療を受けてください。
また、3歳まででも目の異常を感じたときは、眼科医に相談してください。

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絵 大内 秀

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