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子供が近視といわれたら
東京医科歯科大学眼科助教授 大野 京子
近視は日本をはじめとするアジア人に多いことが以前から知られています。特に最近は、パソコンやファミコンなどの普及による近業の増加にともない、子どもでも生活のなかで近くを見る作業の占める割合が多くなっています。このことが、近視の進行に拍車をかけているという説もあります。
さらに近年、近視発症の低年齢化が進み、低学年から近視を発症する頻度が増加しており、香港の学童を調べた最近の調査では、学童の約40パーセント近くが近視であったと報告されています。
必要以上に近視を進行させず、近視とうまくつきあっていくにはどうしたらよいか、このホームページが参考になれば幸いです。
人間の目は、カメラと同じような構造になっています。カメラのレンズに相当するものを水晶体、フィルムに相当するものを網膜といいます。カメラで写真を撮るときはレンズが前後に動いてピントを合わせますが、人間の目では、水晶体がその厚みを増すことにより、無意識のうちにピントを合わせてものを鮮明に見ているのです。この働きを目の"調節"といいます。
正視と屈折異常
調節をしない状態で遠くを見たとき、網膜にきちんとピントが合う屈折状態の人を「正視」といいます。正視の人は遠くがよく見えるわけですが、実際には網膜にピントがきちんと合う人は少なく、大多数は屈折異常です。屈折異常では、網膜にピントが合わず、網膜の前後でピントが合ってしまいます。
網膜の前にピントが合う屈折状態の人を「近視」といい、逆に網膜の後ろにピントがくる人を「遠視」といいます。
近視や遠視という屈折異常を引き起こす大きな原因は、眼軸長といって目の前後方向の長さが異なることが考えられます。さらに、水晶体や角膜の屈折力の差によることもあります。強い近視ではほとんどの場合、眼軸が長いことが原因です。
遠視と乱視のなぜ
Q | 遠視なのに視力が悪くなるのですか? |
---|---|
A |
遠視は目がよい(遠くがよく見える)と、勘違いしている人も多くいます。しかし、実際には遠視の人は、目が調節しない状態で遠くを見たとき、網膜の後ろでピントが合っているわけですから、本当はよく見えないはずです。目には調節という働きがあるので、遠視の程度が軽ければ、調節の働きで水晶体を厚くし、網膜の後ろにきているピントを網膜に合わせて、はっきり見ることができます。そのため、多くの遠視の人はメガネをかけなくても、よく見える、よい目だと感じているのです。 |
Q | 乱視も屈折異常の仲間ですか? |
A |
乱視は目に光が入る方向によってピントが合う位置がまちまちになっている現象です。わかりやすく大ざっぱにいうと、網膜にうつる画像はテレビ画面のようなものですから、その縦の縮尺と横の縮尺が同じでなく異なるために、上下や左右にだぶって見えたりします。 |
近視の原因についてはよく分かっていませんが、遺伝因子と環境因子が複雑にからんで起こると考えられています。そのため同じように近くを見る作業に熱中しても、近視になる子とならない子がいるわけで、目を使いすぎると必ずしも近視になるとは限りません。
そうはいうものの、ネパールで、地方の学校と都会の学校で近視の頻度を比較したところ、近くを見ることの多い都会の学校の子どもに、近視が明らかに多いという報告もされています。近くを見ることが多いという環境因子は、やはり近視の発生や進行に重要な役割を果たしていると思われます。
メガネで矯正できないくらい強い近視には、遺伝的な影響が大きいことが知られています。最近の台湾での研究でも、環境要因を考えに入れても、親に強度近視があると子どもが早いうちから強い近視を生じることが報告されていて、程度の強い近視の発症には遺伝的要因があると思われます。
しかし弱い近視であっても、米国における研究では、両親が近視の子どもは、(片方の親が近視である場合および両親共に近視でない場合と比較して)近視の頻度が明らかに高いことが報告されています。
近視になるかならないかは、環境要因による影響を無視はできないものの、遺伝的因子もあると考えられています。
日本では、小学生の約10パーセントが近視で、中学生になるとさらに増え、20~30パーセントの生徒に近視が見られるようになります。
最近のアジア諸国の調査においても、マレーシアでは、7歳では近視の子は約10パーセントだったのに、その子たちが15歳になると34パーセントが近視になったと報告されています。また香港の調査でも、近視の頻度は年齢とともに増加傾向にあり、11歳では7歳児より15倍も近視が多かったと報告されています。
成長期には、身長が伸びると同時に眼球も発育して大きくなるため、眼軸長が伸び近視になりやすいという説もあります。このように、近視の頻度は高学年になるほど増加する傾向があるといえます。
近業を長く続けると、水晶体の厚さを調節している毛様体が異常に緊張して、一時的に近視の状態になってしまいます。これを偽近視といい、俗に「仮性近視」と呼ばれています。調節を麻痺させる働きのある点眼薬をつけて治療します。
ただ、偽近視の状態が本当にあるかどうかについては、賛否両論があります。また点眼薬も、2~3か月治療して視力が出ないようなら続けても意味はありません。あまり根拠のある治療法ではないので期待しない方がよいと思います。
点眼薬をつけて効果が出ない場合にはメガネを処方してもらったほうがよいでしょう。
体の成長とともに眼軸が延長するため、近視の進行は20代後半まで見られるのがふつうです。そのため、その頃までは年に1回は必ず眼科専門医のもとで視力検査を受け、近視が進行していないか、メガネがきちんと合っているか、チェックしてもらうことが必要です。
近視が非常に強い場合には、20代後半を過ぎても近視が進行し続ける場合があります。また最近ではパソコンなどの近くを見る作業の増加にともない、成人以降に近視が発症したり、弱い近視でも、成人以降も近視が進行し続けたりする場合があります。「9.目に負担をかけない生活とは」に述べるような生活習慣に気をつけることが大切です。
メガネやコンタクトレンズの使用は?
近視の治療は、ピントが合わない分をメガネのレンズやコンタクトレンズで矯正することが一般的です。
近視は凹レンズで矯正します。近視になりかけの偽近視の時期に点眼薬を用いる治療法がありますが、視力がもとに戻る例はそんなに多くありません。
メガネははじめのうち不自由さを感じることはありますが、いたずらにメガネをかける時期を延ばすと、眼精疲労のもとになったり、いろいろな症状を引き起こしたりすることがあり感心できません。
近視は手術で治るの?
近視の手術的矯正法として、角膜周辺部分を放射状に切開する「放射状角膜切開術」や、エキシマレーザーを用いて角膜の中心部分を削るレーシック(LASIK)などがあります。しかし、強い近視では効果が弱く、また、安定した視力予後が得られない場合や、角膜の濁りや眼底出血などの後遺症が残る場合もあります。治療を受ける場合には、十分説明を聞き、納得してから受けるようにしましょう。
また強い近視の人では、目の長さである眼軸の延長にともなって、網膜剥離や眼底出血を起こすことがあり、その場合には早急に治療する必要があります。
近視矯正手術はあくまで角膜に操作を加えて、見かけ上の屈折異常を是正しているだけですから、近視の原因である眼軸の延長は、手術と無関係に進行する場合が多く、手術を受けても眼底出血などの合併病変を起こすリスクは変わりません。
最近の子どもは勉強、読書、テレビ、パソコン、コンピュータゲームなど近くを見る作業が多い生活を送っています。近視の発症や進行を予防するためには、目に負担のかからない生活をすることが大切です。
(1)正しい姿勢で読書や勉強をするようにしましょう。
背中をまっすぐに伸ばし、目と本の距離を30センチくらい離しましょう。
(2)1 時間くらい勉強をしたら、10分間くらい目を休ませましょう。
コンピュータゲームなどは特に目に負担をかけやすいので、40分以上は続けないようにしましょう。寝転んだり、悪い姿勢で本を読んだりすることはやめるべきです。
(3)部屋の照明は明るすぎたり暗すぎたりしないように気をつけましょう。
通常、勉強や読書をするのには300ルクス必要です。これは蛍光灯のスタンドでいうと、15~20ワットに相当します。
近視がどれくらい進んだらメガネが必要?
近視では近くは見えますので、日常生活に不自由がなければ、すぐにメガネをかけなくてもかまいません。ただし、黒板の字が見づらいと勉強にさしつかえるので、席が教室の後ろでも黒板の字が見えるよう、視力が0.7 以下になったらメガネを用意しておいた方がよいでしょう。
ただこれは、学年や地域によってもちがいます。大きな字を見ることが多い小学校低学年では、もう少し視力が下がってからでもよいかもしれません。
メガネをかけたりはずしたりしていいの?
近視が軽ければ、遠くを見るときだけメガネをかければよいのです。近視が進むと、近くを見るのにもメガネがあった方が便利なので、子どもの必要にまかせて判断してください。
メガネをかけたりはずしたりしても、近視の度が進むようなことはありません。
また近視が進んだら、授業で黒板を見る用の少し度数が強めのメガネと、家庭用の弱めのメガネを使い分けると、眼精疲労が少なく装用感もよいと思います。
コンタクトレンズは何歳くらいから使えるの?
コンタクトレンズは角膜の表面に直接のせて用いるレンズで、素材によりハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズなどがあります。美容上の問題などからメガネをかけたくない人に好まれています。
また、非常に強い近視や、左右の視力に差がありすぎるなどの理由で、メガネではよく見えない人には医学上有用です。
しかし、慣れるまでに時間がかかったり、角膜を傷つけてしまったりという問題点があります。レンズの取り扱いや管理が大変であること、角膜を傷つけたりする問題があることなどを考えると、やはり小学生の間はメガネをかけるようにおすすめします。
メガネやコンタクトレンズを作る場合には、必ず眼科専門医のもとを受診してください。視力が低下し、近視が進んだと思っても、目の病気が原因で視力が落ちていないかをチェックする必要があります。
屈折異常なら近視かどうかを確認してもらい、メガネをかけた方がいいと判断された場合には検眼して、その人の生活環境や年齢にあった適切な度のメガネを処方してもらいましょう。
また、検眼は医療行為です。まちがった度数のメガネを処方されたりすると、近視が進んでしまったり、眼精疲労によりいろいろな症状を引き起こしたりすることがあります。必ず、十分な知識を持っている眼科専門医に処方してもらいましょう。
さらにコンタクトレンズは、目の表面に直接つける高度管理医療機器です。角膜や涙の量などに問題がないことなど、コンタクトレンズを装用できる目であるかきちんとチェックしてもらい、一人ひとりにぴったり合ったコンタクトレンズを、眼科専門医に処方してもらいましょう。また、使用期間中は、角膜に傷がついていないか、度数が変わっていないか定期的に診察を受けないと、思わぬ合併症を起こすことがあるので注意してください。
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絵 清水 理江
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