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角膜の病気

近畿大学教授 下村 嘉一

角膜は、目の中央にある直径11mmくらいの円形の組織で、光を通すために透明で血管を持たず、日本人では黒く見えるので、ぞくに黒目と言われています。角膜は、目に入ってくる光を網膜上に焦点を合わせるために強い屈折力を持ち、物を見るための重要な役目を持っています。

従って、角膜が何らかの原因で病気になり、濁ったり、いびつになったりすると視力が低下します。

半世紀くらい前までは、角膜の病気で失明する人が非常に多かったのですが、最近では、治療法が発達し失明する人は少なくなりました。しかし、まだまだ恐い病気で、失明する危険があります。

単純ヘルペスウイルスによる角膜感染症を角膜ヘルペスと呼びます。ちなみに、このウイルスは口唇(こうしん)ヘルペス(熱の華)を引き起こすウイルスと同じです。大部分の人は成人になるまでに、このウイルスに感染していますが、発症はあまりしません(不顕性感染)。

感染後、ウイルスは三叉(さんさ)神経節(目の後ろにある)に潜伏感染します。成人になった後、発熱やストレス、疲労が誘因となって、神経節のウイルスが活性化して、約0.05%の人に角膜ヘルペスが発症します。

症状としては、眼痛・なみだ目・充血が起こり視力が落ちてきます。

他の目の病気とは異なり、よく再発することが特徴で、従って目の感染症の中で、一番失明率が高い病気です。しかし、近年、角膜ヘルペスに対して非常に効果を発揮する特効薬(アシクロビル)か開発され、失明率は低下しました。

他の人に伝染することはあまりありませんが、ウイルスに対して抗体を持っていない乳幼児に対しては注意が必要です。患者さんが自分の目を触った手で、乳幼児に感染させる可能性があります。

眼球の断面図

目の外観(左目)

帯状(たいじょう)ヘルペスウイルスによっても、角膜が感染して、視力が落ちたり、目が充血したりします。このウイルスは、幼児期に水痘(すいとう)(水ぼうそう)を引き起こすウイルスが再活性化したもので、水痘・帯状ヘルペスウイルスとも呼びます。

目の症状は、角膜ヘルペスと同じですが、顔に発疹が出ることが特徴です。まず、皮膚に発疹が出て、その後、目に症状が出ます。結膜炎の形で発症することが多いのですが、時に角膜にも炎症を起こすことがあります。

治療は角膜ヘルペスとほぼ同じです。しかし、数は少ないのですが、眼球を支配する神経に麻痺が来て、二重に見えたり(複視)、視神経炎を合併することもあります。このウイルスも伝染力は弱いのですが、乳幼児に対しては注意が必要です。

この病気の後遺症として、帯状ヘルペス後神経痛(目が治っても、目の周りの痛みが長期間に渡って続く)があります。特に高齢者の人に多い後遺症です。

感染予防の注意

  • 洗面器、タオルは別にする。目に触れた手はセッケンでよく洗い、アルコールで消毒する
  • 患者が触ったところも、消毒用アルコールでふく
  • 涙や目やにはティッシュペーパーなどでふき、すてる。

角膜が混濁して、後に瘢痕(はんこん)化して白斑(はくはん)(白い斑点)となったものを、俗に「目ぼし」と言っています。原因は外傷、感染、変性症(先天的な病気)など多くあります。

角膜の瘢痕化の程度で、呼び方が異なり、軽度のものを角膜片雲、中等度のものを角膜斑、重症のものを角膜白斑と言い、その程度により視力が障害されます。

原因となった病気の治療をしても効果がなく、広い範囲に白斑になってしまった場合、角膜移植が必要となります。角膜移植後の視力は約8割の人がよい視力を得られます。

外傷による角膜潰瘍(かくまくかいよう)を「つき目」と俗に呼びます。

角膜潰瘍とは、角膜に炎症が起こって、角膜を保護している一番上の層である角膜上皮細胞層がなくなり、角膜が濁ることを言います。

目に異物が入ったのを放置しておくと、角膜に潰瘍ができ、かなり激しい眼痛が起こります。軽症のものであれば、抗生物質の点眼だけで治りますが、重症のものであれば、入院して抗生物質の点滴が必要となる場合もあります。

原因としては種々の細菌があげられます。従来から多いとされていたものが、ぶどう球菌と肺炎球菌ですが、最近では、緑膿菌と溶連菌、そしてセラチアに注意が必要です。原因は細菌ですので、伝染力はありません。

しかし、ちょっとした外傷でも重症になる可能性がありますので、異物が目に入った時は、眼科医の診療がぜひ必要です。

アデノウイルスによる目の感染症を、「はやり目」と俗に呼びます。

目やにや涙、強い充血が主症状です。片目に発症して、数日遅れて他眼に発症することもあります。耳の前のリンパ節が腫れることも特徴です。

伝染力が非常に強く、感染した目を触ったら、必ず流水で手指を洗うことが大事です。家族や周囲の人との接触に気をつけることが必要で、家族内で感染したり、仕事場、学校などで感染したりしますので、感染予防のため、休業あるいは休校(一週間)する必要もあります。

また、感染した人が触った器具はできれば、消毒用アルコールで拭いて下さい。患者さんが使った点眼瓶にはウイルスが付着していることがありますから、他の人が触らないように、また一週間以上使った点眼瓶は使用しないようにします。

通常、このウイルスは結膜炎を引き起こしますが、時に角膜炎になることもあります。ウイルスに有効な治療薬はありませんが、混合感染を防止するために抗生物質の目薬を点眼します。

びまん性角膜上皮症(点状表層角膜症)とは、角膜上皮(角膜の最表層)に点状に生じる多発性の上皮欠損を指し、さまざまの原因で発生します。

目が真っ赤になる症状でびまん性角膜上皮症に気づくことがあります。 自覚症状としては異物感や充血があげられますが、原因となる疾患によって症状の重さは異なります。まぶたに異常があったり(睫毛(しょうもう)乱生症や慢性の眼瞼(がんけん)炎など)、結膜に異常があったり(アレルギー性結膜炎やウイルス性結膜炎など)、涙液に異常があったり(ドライアイなど)しますので、症状があれば、すぐに眼科専門医を受診して下さい。

ハードやソフトコンタクトレンズによって、ときに角膜に潰瘍ができたり、上皮障害が発生します。決められたレンズケアを守らなかったりしてレンズが汚れると、角膜に小さい上皮障害ができて異物感や軽い充血がみられます。

さらに、コンタクトレンズを目に入れたまま眠ったりすると、翌朝、激しい眼痛が起こります。このような場合、角膜の傷が深いことがあるので、直ちに眼科専門医を受診する必要があります。

治療はその上皮障害によりますが、抗生物質の点眼や眼軟膏(がんなんこう)を処方します。最近、コンタクトレンズ装用者で、治療の困難なアカントアメーバーの角膜炎が報告されていますので、注意が必要です。

突然、角膜に傷(上皮びらん)ができて、いったん治った後、また再発をくり返す病気です。症状は特徴的で、突然朝に激しい眼痛と涙目になり、たいがいの場合、紙や爪による外傷の既往歴があります。

なぜ特定の人にこのような上皮びらんが生じるか、くわしくは判っていませんが、角膜上皮の接着性が外傷をきっかけにして悪くなるのではと考えられています。

治療は抗生物質の点眼や眼軟膏を塗布したりします。この治療で治らない場合は、接着不良の角膜上皮を除去して、治療用ソフトコンタクトレンズを装用したりします。

以上のような外傷を契機に発症する再発性角膜上皮びらんの他に、角膜の変性症の人で同じような症状が出ることがあります。

ドライアイとは、涙の量が減少して、目の表面の粘膜(角膜および結膜の上皮)が異常をきたした状態をさします。

患者さんによりドライアイの程度はかなり多様で、読書を長時間行ったとき一時的にドライアイが生じるものから、シェーグレン症候群のように口腔(こうこう)粘膜が乾き、口や目も乾くといった全身病からくる症状の重いものまであります。

症状としては、目の疲れ、目が重い、目が熱い、目の異物感、目が充血する、など様々なものがあります。意外に目が乾くということを訴える人は少ないようです。

治療はドライアイの程度によりますが、人工涙液の頻回点眼やドライアイ・メガネ(通常の眼鏡のレンズ周囲に透明カバーを取付けて、涙の蒸発を防ぐ)を装用します。防腐剤の入っていない目薬がきく場合もあります。

目薬で軽快しない場合は、涙点(涙が目から鼻腔へ流出する出口)をプラグで閉じたり、あるいは外科的に糸で縫合(涙点閉鎖術)したりします。

※現在は、単純に涙が少ないだけでなく、涙を含めた目の表面の安定性が悪いタイプに対しての治療薬も出来てきました。(2014年8月追記)

三角形の形をした結膜が、角膜の鼻側に侵入してくるものを翼状片(よくじょうへん)と呼びます。

これは結膜下の組織の異常増殖で悪性のものではありません。角膜の中央付近まで、侵入すると視力が低下しますので、切除する必要があります。

原因は不明ですが、外で仕事をして太陽光線によくあたる人に多いようです。通常、手術は外来で行い、入院の必要はありませんが、再発をよく起こすので注意が必要です。

スキーをやったときなど、紫外線により角膜に障害を起こしたものを俗に「雪目」と呼びます。角膜全体に点状の角膜上皮(角膜の最表層)欠損が起こります。サングラスやゴーグルをかけずにスキーをしたり、実験室内で長時間紫外線をうけたりした後、数時間後に激しい眼痛と涙目が起こります。

治療は人工涙液の点眼や、混合感染予防の目的で抗生物質の点眼をし、できれば眼帯をします。眼痛に対しては鎮痛薬を内服します。通常、数日で症状は治ります。

角膜移植は、混濁した角膜を除き透明な角膜を移植する手術です。通常、角膜中央部の直径7~8mmの範囲を置き換えます。

角膜移植には二種類の方法があります。一つは角膜全層を置き換える全層移植と、もう一つは角膜の上3分の2層を置き換える表層移植があります。角膜の病気によって移植の方法を選択します。

角膜の病気によりますが、角膜移植の成功率は80%前後です。

手術には、アイバンクに登録されている提供者の角膜を用います。角膜移植後、大事なことは拒絶反応(充血や視力低下の症状があります)に注意することです。拒絶反応が起きたら早期に治療する必要があります。

日本では、角膜移植を待っている患者さんに比ベて、角膜提供者が非常に少なく、角膜移植の申込みをしても、数年間も手術を待たねばなりません。

角膜提供を希望される方は、所在地のアイバンクに連絡して、登録して下さい。現在、全国で50か所にアイバンクがあります。

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※最近は、海外から角膜を輸入して移植する場合も増えてきています。(2014年8月追記)

絵 大内 秀

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