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花粉症と目
横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター眼科 助教授 内尾 英一
花粉症は、目のアレルギーの一種で、ここ数年前から非常に増え、全国で約2,000万人の花粉症の患者さんがいるといわれています。これは、日本人の食生活や住宅環境の変化や公害などの汚染物質の影響があるといわれています。花粉症は世間に広く知られている病気ですが、どんな病気かと聞かれると、分からない人が多いようです。原因としては、春先に発生するスギ花粉が有名ですが、この他、年間を通じていろんな植物の花粉が原因として挙げられます。治療法はいろいろありますが、まず眼科専門医で適切な診察を受け、正しい治療を受けることをお勧めします。
花粉症、とりわけ春先に生じるスギ花粉症は、毎年非常に多数の方が発症されています。花粉の飛散状況が天気予報の中で報じられるのが、あたりまえに感じるほど花粉症は社会的な関心事、国民病ともいえる状況になっています。
日本眼科医会の調査では、目のかゆみを感じたことのある方は約20%、医師によって「アレルギー性結膜炎」と診断されたことのある方は約15%もいることが報告されており、わが国では約2,000万人のアレルギー性結膜炎の患者さんがおられ、その大半は花粉症によるものであると推測されております。
このように花粉症の患者さんが多くなった理由は、花粉症の原因で最も多いスギが戦後の植林事業の結果、各地に植えられたことがあげられます。そして、現在のスギの生育状況から、花粉の飛数量は2050年には現在の1.8倍に増え、花粉症の患者さんも同じ割合で増加していくと予想されています。
もちろん、花粉症の原因はスギだけではなく、カモガヤなどのイネ科の雑草や、ヨモギ、ブタクサ、ヒノキなどによる花粉もあり、一年中を通して何らかの花粉が空中を飛んでいることも事実です。
花粉症はアレルギーの代表的な病気です。アレルギーにはこのほかに、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎などがあります。からだの中で、それぞれ病気の起こる部分はさまざまですが、そのメカニズムはほぼ共通です。
アレルギーは、からだに外から異物が入ってきたときに起こる「免疫反応」の仲間ですが、細菌やウイルスなどの病原微生物に対して生じる反応との大きな違いは、本来無害なものに対してからだが過剰に反応したものがアレルギーであるということです。
スギやブタクサの花粉はそれ自体に毒性があるわけではないのですが、飛び散った花粉が目や鼻から体内に入ると、それにからだの中の「好酸球」という白血球の仲間の細胞が反応して、かゆみやくしゃみなどのアレルギー反応を起こす粒を血液の中に放出して花粉症特有のいろいろな症状が現れてくるわけです。
花粉症を含めたアレルギーの原因はまだわからないことが多いのですが、最近の大きな環境の変化、例えばディーゼルエンジンによる大気汚染や密閉した住まいにダニが増えていることなどが原因ではないかと考えられています。またアレルギーになりやすい体質は遺伝しやすいこともよく知られています。
花粉症は、目以外の部分にもアレルギー性鼻炎などの症状が現れますが、目は非常に症状のでやすい場所です。それにはいくつかの理由が考えられます
第一には結膜という部分は直接外界に接しており、花粉が入りやすいことです。
第二には、入ってきた花粉の成分の中でも、からだとの反応を生じる抗原の蛋白質が目を常にうるおしている涙液によって溶かされやすい性質があります。
第三には、結膜には実際のアレルギーの反応をひきおこす免疫細胞がたくさんあり、血管もたくさんあるためにからだの方から、次から次へと炎症を起こす細胞が入り込みやすい、といった点があげられます。アレルギー以外の原因で起こる結膜炎、例えばウイルスによって起こるはやり目の際に見られるように、目が赤くなるのは、この血管がたくさんあることによって起きているものです。
ただし、花粉は目に直接触れる以外に鼻を通して吸い込むことによってもからだに入り、全身のアレルギー反応の結果、目にも症状が出ることも少なくありません。
花粉症の目の状態を「花粉性結膜炎」と呼びますが、症状としては、かゆみが最も代表的なものです。目そのものがかゆく感じる場合もありますが、まぶたやまぶたのふちなどの部分に特にかゆみが現れやすく、かけばかくほど症状が強くなることもあります。これはアレルギー反応の特徴ですので、適切な治療によってかゆみを止めることが必要です。
次に多いのはごろごろした感じ、「異物感」というものです。アレルギーの反応によってまぶたの裏側の結膜に粒状のもりあがりができますが、これがまばたきの際に黒目(角膜)と接触することによって生じる症状です。小さなゴミが入ったように感じることもあります。そして、場合によっては黒目にきずがつくこともあります。涙もよく見られる症状です。目やには、はやり目に比べると多くはありません。
花粉性結膜炎は原因がはっきりしていますので、ある季節に毎年起きること、程度の差はあっても両方の目に生じることも特徴です。
花粉性結膜炎の治療には抗アレルギー薬という薬が、主として用いられています。
これは、先ほど述べたアレルギー反応の中で、かゆみやくしゃみなどを引き起こす指令を伝える物質が細胞から血液に出てこないようにおさえる薬です。通常目薬として使用します。
症状が強い場合は、ステロイド薬も用いられることがあります。
ホルモンの薬であるステロイド薬は、適切に使用すればとてもすぐれた薬ですが、目に緑内障などの副作用が現れることがあるので、使用にあたっては注意が必要です。
それでも、強いかゆみなどで日常生活や仕事に差し支えがある場合は、抗アレルギー薬をのみ薬として服用することもあります。
以上のような治療法は、症状をしずめるための対症療法というものですが、これに対しアレルギーのもとをおさえる治療に減感作療法があります。
原因となる花粉が検査でわかっている方に対し、その花粉を低い濃度から徐々に高い濃度まで時間をかけて注射することによって、からだが反応しないようにならす方法です。
ある程度の効果のあることはわかっていますが、最低半年間、毎週通院する必要があります。
そして花粉以外の原因、ダニやハウスダストなどによってアレルギーが起こる方にも行える方法です。
花粉症にはそれぞれ花粉の飛びやすい季節があります。例えばスギは二月から三月頃ですが、この時期に、花粉が目や鼻に入り込まないようにすることは花粉症の予防法として重要です。
メガネには多少の防塵作用はありますが、花粉症用に特別に作られたゴーグル状のものなどを使わない限り、完全に防ぐことは難しいといえます。
したがって、花粉の症状を予防する方法としては、花粉の飛びやすい、雨天の翌日の晴れた日などはなるべく外出や布団を干すことを避けたり、外出から帰った際に衣服に付いた花粉を十分落としたりすることがあげられます。
目を洗うことは、花粉を洗い流すという意味では効果が期待できますが、実際に結膜炎になってしまった場合は、アレルギーに対するからだの反応そのものも洗い流してしまうこともあって、目を洗うことは勧められません。ただし洗顔して、目のまわりを洗うのはかまいません。
何年もの間、花粉性結膜炎を繰り返している方の場合は、花粉が飛び始める少し前から、抗アレルギー薬を目薬として予防の意味で使うことが、予防的な治療法として行われることがあります。
この場合も、前の年に使用した点眼薬は有効期限が切れていたり、雑菌が容器に入っていたりすることがあるので、診察を受けて、眼科医師が処方した点眼薬を使っていただくことが大切です。
これから、ますます花粉症は増えていくと予想されており、二十一世紀をむかえた現在も多くの方が治療を必要とする病気であることは間違いないと考えられます。ただ、結膜炎の中には、はやり目のように感染力の強いものや、ヘルペスなど視力に影響を与えるものもありますので、自己判断のもとに、市販点眼薬を安易に用いたりせずに、眼科専門医の適切な診療を受けて、正しい治療を行うことが重要です。
そしてアレルギーの原因を、簡単な検査によって知ることから、ダニの除去など、今後の生活の指針が得られますし、不快なアレルギー症状を防ぐ上でもとても役に立つことでしょう。
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絵 大内 秀
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