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40歳を過ぎたら受けよう!!眼底検査 目の健康を守るために
三重大学医学部 眼科学教授 近藤峰生
眼底検査とは、目の奥でカメラのフィルムのような役割を果たしている網膜の状態を、観察する検査です。
体内で唯一、血管の状態をそのまま観察できるのが眼底なので、眼底検査により、目の病気だけでなく全身の病気を早期に診断することができます。
高血圧や動脈硬化、また糖尿病の状態なども、眼底検査でよくわかります。また、目の病気の多くは、初期や軽症の状態では症状がほとんどないので、自分で気づくことができません。このような場合でも、眼底検査によって正確に診断することができます。
眼底検査で見つけることができる病気の多くは、特に40歳以降の中高年から出現することがほとんどです。しかし、健康診断で眼底検査を取り入れている職場は、まだ少数です。
そこで、40歳を過ぎて何らかの目の症状のある方、また眼底検査を受ける機会のある方は、眼科専門医による年に1回程度の眼底の定期検査を、是非とも受けることをお勧めします。
三重大学医学部 眼科学教授 近藤峰生
目の構造は、カメラによく似ています。私たちが見ている外の景色は、水晶体(レンズ)でピントを合わせたあとで、眼球の内側に張っている網膜というフィルムの上に、映し出されます(下図)。
この網膜の状態を観察したり撮影したりするのが、眼底検査です。眼底検査は、眼科の検査の中でも、視力検査とならんで重要な検査です。
眼底には、目や全身の病気がわかる重要な情報が詰まっています。つまり、眼底検査を受けることで、目の病気や全身の病気の早期発見が可能となり、さらに定期的に検査を受けることで、病気の状態の変化をとらえることが可能になります。
●眼底検査はどのように行うの?
眼科医が検眼鏡という器具を使って、直接、眼球の奥を観察する方法と、眼底カメラという装置を使って撮影する方法があります。健康診断では通常、後者の方法で行います。
眼底検査では、検査時にまぶしさを感じることはありますが、どちらの検査方法も痛みはなく、短時間で終わります。
眼底カメラで眼底写真を撮影している様子
●眼底写真では何が見えるの?
正常な眼底の中心は黄斑部とよばれ、ここは視力に関係する最も重要な部分です。また黄斑の鼻側に、視神経乳頭という円形の部分があります。網膜に映し出された情報は、この部分から視神経という線維を通して、脳に伝えられます。
加えて眼底写真では、網膜の血管である動脈と静脈を見ることもできます。
正常者の眼底写真の例(左眼)
健康診断の眼底検査で最もよく見つかる病気は、緑内障です。緑内障は、40歳以上では、20人に1人もいるといわれます。
緑内障は、眼圧が高いことにより、眼底の視神経が傷んでくる病気です。日本では、眼圧が高くないのに視神経が弱くなる「正常眼圧緑内障」が最も多いです。
緑内障の初期では、視野の一部が見えなくなることが多いですが、ほとんどの人は、この初期症状に気づきません。ですので、眼底検査がとても重要です。
緑内障の眼底検査では、下図のように、視神経乳頭のくぼみ(視神経乳頭の陥凹)が拡がったり、網膜の表面の視神経線維が欠損した状態を早期に発見できます。結果、症状の自覚のない初期から治療を受けることが可能になります。
緑内障の眼底写真の例(左眼)
眼底検査は、人体の中で唯一、血管をそのままの状態で観察できる検査法です。これにより、高血圧や動脈硬化が進んでいるかどうかがわかります。
高血圧の眼底写真
高血圧が長く続くと、動脈が細くなってきます。これを、動脈の「狭細化」といいます。また、1本の動脈に、太い部分と細い部分ができる「口径不同」という現象が現れることもあります。
高血圧の眼底写真の例(左眼)
動脈硬化の眼底写真
動脈硬化とは、動脈の血管の壁が硬くなる変化のことです。初期では、血管の中央が輝いて見えます。
さらに動脈硬化が進行すると、動脈と静脈が交叉している所で静脈が細くなる「交叉現象」が見られることがあります。
動脈硬化の患者に見られた、交叉現象
糖尿病網膜症は、日本における失明原因の第3位です。糖尿病を発症して15年経つと、およそ40%の人が網膜症を発症するといわれています。
自分では、視力低下などの症状がないまま網膜症が進行するので、注意が必要です。
糖尿病網膜症の眼底は、初期では出血や白斑が出現します。
初期の糖尿病網膜症の例(左眼)
糖尿病網膜症が進行すると、網膜の血のめぐりが悪くなり、網膜に新しい血管(新生血管)が発生したり、膜状の組織(増殖膜)が網膜を引っ張って「網膜剥離 」を起こすこともあります。
この他に、黄斑に水が溜まって「黄斑浮腫」を起こすこともあります。
進行した糖尿病網膜症の例(左眼)
糖尿病網膜症は、現在、様々な治療法があります。
糖尿病がある方は、網膜症が進行して失明に至らないように、必ず定期的な眼底検査を受けてください。
加齢黄斑変性は、高齢者に多く発症する網膜の病気です。加齢にともない網膜の中心部が弱くなって、視力が低下したり、物が歪ゆがんで見える症状がでます。
初期には、「ドルーゼン」とよばれる黄色の小さな斑点が出現することもあります。
加齢黄斑変性の眼底写真(左眼)
多くの加齢黄斑変性では、黄斑部に新生血管(上図)が生えて、そこから出血したり水がもれて、黄斑部が傷害されます。このタイプは「新生血管型」とよばれます。この場合、「抗VEGF薬」といわれる薬剤を、眼内に注射して治療することが多いです。
黄斑に新生血管が生えなくても、加齢により黄斑部が弱くなっていくことがあり、このタイプは「萎縮型」とよばれます。現在、日本では、このタイプには治療法がありません。
網膜静脈閉塞症は、網膜の中の静脈が閉塞して血行が悪くなる病気で、高血圧のある中高年に多いです。
網膜静脈閉塞症は、網膜の中の静脈の枝が閉塞する「網膜静脈分枝閉塞症」と、視神経乳頭の奥で、太い網膜静脈が閉塞する「網膜中心静脈閉塞症」に分けられます。一般に後者の方が重症です。
網膜静脈閉塞症は、眼底検査で、多量の出血により診断されることが多いです。部分的な出血なら「網膜静脈分枝閉塞症」で、全体的に多量の出血なら「網膜中心静脈閉塞症」と診断されます。
黄斑にむくみ(浮腫) がある場合には、眼内に注射して治療します。その他、レーザー治療を行うこともあります。
網膜静脈分枝閉塞症の眼底写真(左眼)
網膜中心静脈閉塞症の眼底写真(左眼)
網膜色素変性は、遺伝により網膜が弱くなる病気です。初期には暗い場所で見にくい症状(夜盲)が出現し、その後に視野が徐々に狭くなっていくことが多いです。いまだに治療法がない難病です。
眼底検査では、眼底の周辺に色素が沈着していることにより診断されます。
網膜色素変性の眼底写真(左眼)
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