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コンタクトレンズと感染症
愛媛大学医学部眼科 教授 大橋 裕一
屈折矯正手術の出現はありますが、コンタクトレンズ装用者の数はまだ伸び続けています。この理由として、単にコンタクトレンズのケア方法のみならず、バイフォーカル、トーリック、カラーなど、その種類においても様々なバリエーションが登場し、個々のユーザーのライフスタイルに応じた自由な選択が可能になったことがあげられるでしょう。
しかしながら、コンタクトレンズが異物であることに変わりはありません。使い方を誤ったり、ケアを怠ったりすると、快適なコンタクトレンズ・ライフに支障が生じます。特に、角膜感染症は絶対に避けたいトラブルのひとつです。たとえうまく治癒したとしても角膜に炎症の痕跡が残るため、視力低下を招くことが少なくないからです。文中にも書きましたが、まさに安全と危険とは紙一重。眼科専門医との密接な連携の中、感染の危険からあなたの目を守る努力が必要なのです。
ユーザーが1000万人をゆうに越すコンタクトレンズの歴史は、あのルネッサンス時代の天才、レオナルド・ダ・ビンチに始まるといわれています。角膜に直接接しているため、メガネよりも自然に近い見え方が得られることや、美容的な観点などから、コンタクトレンズは若者を中心に広く受け入れられています。
人気の中心は2週間使い捨てレンズに代表されるソフト系ですが、装用感が良い反面、ケアの方法を誤ると手痛いしっぺ返しを受けることもあります。特に感染症はユーザーの大敵です。まずは、正しいレンズ装用法を身につけることが何よりも肝要です。
目の構造
コンタクトレンズには微生物による汚染の危険性が常につきまとっています。その第一は手指を介してのレンズ装脱時の汚染ですが、これを防ぐには事前に手指を洗う習慣をつけることしか方法はありません。
第二は保存ケースを介しての汚染で、ケースにしまってさえおけば中は清潔と誤解しているユーザーが意外に多く、大きな盲点となっています。
最後に、まぶたや結膜
コンタクトレンズは涙の中に浮かんでいる矯正用具です。角膜表面の細胞に必要な酸素は涙を介して交換されていますし、涙が正常に分泌されていることは、安全なレンズ装用にとても重要なファクターです。
涙の中には、ラクトフェリン、リゾチーム、免疫グロブリンといった抗菌物質や、トリモチのようにばい菌を捕獲するムチンという物質が含まれています。したがって、ドライアイ、すなわち涙の分泌や成分に異常がある人は、装用中に感染症を起こす危険性が普通の人の何倍もあります。
涙の機能が正常かどうかを、眼科専門医にチェックしてもらうようにしましょう。
バイオフィルムとは、細菌によって作られたスライムと呼ばれる
長時間使用していると、ケース内にはこうしたバイオフィルムに守られた細菌の巣がたくさんできます。煮沸消毒なら死滅させることも可能ですが、近ごろ頻用されているマルチパーパス・ソリューションではなかなか歯が立ちません。ケース内をいつもきれいにしておくとともに、新しいケースと定期的に交換する必要があります。
バイオフィルム
一体、コンタクトレンズ装用に伴う合併症はどのくらいの頻度で起きているのでしょうか。残念ながら、こうしたトラブルの発生頻度を正確に示した調査は今のところありませんが、日本眼科医会が平成13年に全国の眼科医療機関を対象に行った合併症調査から、その一端をかいま見ることは可能です。
下の表に示すとおり、非常に多くの合併症が起こることがわかりますが、中でも感染の兆候のひとつである角膜浸潤(6.7%)や危険因子となる角膜上皮びらん(16.2%)が高頻度で発生しているのは問題です。コンタクトレンズのもたらす快適さと感染の恐怖とはまさに隣り合わせなのです。
コンタクトレンズ装用に伴う合併症
角膜に感染が起こると、目が痛くなったり、白目が充血して目やにもでてきます。また、コンタクトレンズをはずしてメガネにかえてもあまりよく見えません。これは、感染によって目に炎症が起き、角膜の透明性が低下したためです。こうした症状が急に起こったら危険信号です。
もちろん、すべてが感染によるものとは限りません。レンズに傷がついていたり、フィッティングが悪かったり、まぶたの裏に炎症が起こっていたりするケースもよくあるからです。
いずれにしても、眼科専門医の診断を仰ぐことが一番です。
数あるコンタクトレンズ合併症の中で、最も病状が重くなるのはアカントアメーバ感染症です。水道水などを介して侵入し、ケース内で増殖したアカントアメーバがコンタクトレンズを介して角膜に感染を起こしますが、ルーズな装用(時々使用する、あまりレンズケアをしない、指定期間を越えて使用する、水道水で洗浄)をしている人に圧倒的に多く見られます。
抗真菌薬の投与や病変の
アカントアメーバによる角膜感染
先進国においては、コンタクトレンズ装用が細菌性角膜炎の危険因子のトップを占めています。臨床的によく見られるのは、緑膿菌やセラチアなどのグラム陰性桿菌と表皮ブドウ球菌やアクネス菌などのグラム陽性菌です。
実際、レンズケース内の液を培養すると、非常に高い頻度でグラム陰性桿菌が分離されることから、ケースが感染の温床になっていることがうかがわれます。特に緑膿菌は非常に強い病原性を持つため、迅速な対応が必要で、タイミングを誤ると失明してしまうこともあります。
緑膿菌による角膜感染
感染の危険は誰にでもありますが、中に、普通の人よりも感染を起こしやすい素因を持った人たちがいます。そのひとつが最近増加の一途をたどっているアトピー性皮膚炎で、常在菌であるブドウ球菌の感染が起こりやすいとされています。その他、ドライアイも問題です。前述したように微生物と戦うための武器がもともと少ないからです。コンタクトレンズの装用でドライアイが助長されることもあります。
しかしながら、最も良くないのがケアのルーズな人たちです。コンタクトレンズは異物です。正しいケアを身につけましょう。
コンタクトレンズはハード系とソフト系とに分けられます。ハード系では、現在RGPCL(ガス透過性)が主流で、視力のの質、乱視矯正効果においてはソフト系をしのいでいます。
一方のソフト系では、2週間使い捨てタイプが主流で、視力の質では一歩ゆずるものの群を抜いた装用感の良さが売り物です。ただし、汚れやすいのが難点で細菌や真菌などがレンズ表面に付着しやすくなっており、コンタクトレンズを原因とする感染症の大多数はソフト系の使用者です。注意しましょう。
レンズの消毒の方法は大きく熱消毒と化学消毒とに分けられます。微生物を殺す力、目への安全性、レンズの洗浄効果などが重要な因子ですが、結論から言うと、これらすべてを満足させる消毒法はありません。
殺菌力からいえば熱消毒の右にでるものはありませんが、特殊な消毒器が必要など手間がかかること、レンズの性能に影響を与えやすいこと、アレルギー反応を起こしやすいことなどから敬遠されがちです。現在は、MPSと略称されるマルチパーパス・ソリューションが広く用いられていますが、殺菌力には多少の疑問があります。どれも一長一短、ユーザーの性格や生活様式に応じて、適切なものを選択すべきでしょう。
すすぎ、消毒、保存というステップがひとつの液で可能なMPS(マルチパーパス・ソリューション)が現在のレンズケアの中心で、2週間交換レンズには必須のアイテムです。その利便性からユーザーが飛びつくのも無理はありません。
MPSの主成分は界面活性剤で、洗浄効果のほかにある程度の殺菌力も有しており、ケース内に保存中に作用を発揮しますが、最も恐ろしいアカントアメーバに対するデータが公表されていない点には注意を要します。
コスト面の問題はありますが、感染を防ぐ意味では1日使い捨てレンズのほうが有利です。
最近、
米国で承認されたレンズもありますが、安全性に関するデータはまだわが国にはありません。現在、多施設での臨床試験が進行中ですが、海外では角膜感染症の報告も散見されます。
小児への安易な使用は禁物です。
OK(Ortho Keratology)レンズ
※オルソケラトロジーレンズを有効かつ安全に行うためには、正しい処方と使用方法を守ることが大切なので、現在、日本眼科学会はガイドラインを策定しています。(2014年8月追記)コンタクトレンズが装用可能な目であるかどうかをチェックしておくことは、無用な合併症を防ぐ意味で重要です。一体どのくらいの近視なのか?涙の分泌状態はどうか?まぶたや結膜、角膜に異常はないか?眼底は大丈夫か?など詳しく調べてもらう必要があります。
特に最近では、バイフォーカル、トーリック、カラーなどバリエーションが非常に多彩なため、眼科専門医でないとなかなか的確なアドバイスは受けられません。もちろん、度数がちゃんと合っているか、フィッティングは適切かなどについて定期的な検査も欠かせません。
処方と定期検査は絶対に眼科専門医で。
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絵 大内 秀
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