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子どもの目と外傷
日本眼科医会 乳幼児・学校保健委員会委員長 宮浦眼科院長 宮浦 徹
私たちは「危ないっ!」と感じた時に、思わず目をつぶってしまいますが、これは目を守るための本能的な行動といえます。一方、眼球は柔らかい脂肪組織に包まれ、眼窩と呼ばれる骨のケースに収められ保護されています。ほこりや小さな異物の侵入も、まつ毛が防いでくれます。
このように目は様々な仕組みによって守られていますが、経験の少ない子どもは危険を予測できず、またとっさの場合に回避する身体能力も未熟なため目のケガが多く、保護者をはじめ周りの大人たちの見守りが必要です。
子どもが成長するにつれ、目のケガの頻度や内容も変わってきます。学校でのケガのデータなどをもとに、子どもの目と外傷についてまとめてみました。
就学前の幼児ではケガをする子が多く、就学後小学校、中学校、高校と進むにつれてケガをする頻度は減少してきます。
一方、様々なケガのうち、目のケガが占める割合も幼児では高く12%ですが、成長とともに減少し、小学生で9%、中学生で7%、高校生では5%となります(平成20年度)。心身の成長に伴い、危険を回避する能力が向上していく過程を反映しているといえます。
ただ10年前や20年前のデータと比較すると、目のケガが占める割合が増えており、子どもたちの身体能力の低下が懸念されています。
平成20年度の子どものケガを例にとると、学校でケガをした男子の比率は幼稚園で63%、小学校62%、中学校61%、高校64%となり、学校種に限らず男子の方が女子よりもケガが多く、男女比はおおむね3:2ということになります。
年少児にはケガが多く、特に顔や目にケガを負いやすいことを考えあわせると、いつも顔にすり傷を作っている腕白な男の子の姿が思い浮かびます。ただ年少児のケガには軽傷のものが多く、障害を残すような重篤な目のケガは中高生の男子に多くみられます。
大人はそれまでの多くの体験を通して、事故の発生を予測することができ、とっさの場合にもすばやく反応することができます。また危険を回避する身体能力にも長けています。
これに比べて経験の少ない年少児では、予想もつかないケガをします。例えば輪ゴムを使った工作の授業で、ゴムの弾力で飛んだ部品が目に当たったり、掃除の時に友達とふざけていて箒の柄で目を突いたりして障害を残すような事故が起こっています。
とくに小学生では休憩時間の事故が多く、友人とのふざけ合いやけんかが原因のケガが多く発生しています。
学校は一般社会と異なり、子どもたちの安全に配慮された特別な環境といえます。とくに授業中は学校の先生が、子どもたちを直接見守っているため、より安全な時間といえます。それでも学校でのケガの25%は授業中に発生しています。
ただ子どもたちが学校生活でもっとも長く過ごしている時間が授業であること、体育の授業におけるケガが多いことなどを考慮すれば、普通教科の授業中に発生するケガはごく限られたもので、発生率は低いといえます。
中学生になると課外指導、すなわちクラブ活動が始まります。そのためスポーツクラブの活動時に発生するケガが増えます。
球技、陸上、武道はケガの多いスポーツですが、なかでも球技は競技人口も多く、中高生のスポーツによるケガの70~80%を占めています。
また目のケガを起こし易いスポーツ種目はテニス、野球(ソフトボールを含む)、バドミントンで、いずれもケガをしたときの10~20%が目のケガであるといわれています。
眼球打撲はスポーツ、けんか、転倒などでみられ、目に様々な病変を引き起こします。
眼瞼裂傷では、目の上が切れ、出血が多いのが特徴です。
ボールが角膜を直撃すると、角膜びらんや混濁を起こします。外力が強ければ、虹彩、水晶体、網膜にまで病変が及びます。
とくに外傷性の網膜裂孔、網膜剥離は、治療が遅れると視力障害を残すことが多く、注意が必要です。
眼球を支えている骨が破損する眼窩底骨折(吹き抜け骨折)では眼球の動きが障害され、物がだぶって見えるようになります。眉毛の上の打撲が視神経を保護している視神経管と呼ばれる骨を破損し、一瞬にして失明することもあります。
遊具には流行があり、子どもたちは時に危険な遊具で目に障害を負うことがあります。
平成元年頃にエアガンの無差別な発砲事件が多発し、社会問題となったことがあります。中高生のあいだでもエアガンが流行し、エアガンによる眼外傷として学会でも多くの症例が報告されました。今もサバイバルゲームという名前で一部の若者のあいだで流行しており、その使用にあたってはフェースマスクの使用が義務づけられています。
18歳未満の購入には保護者の許可が必要になりましたが、一方ではインターネットで容易に入手できる現実があります。
良く似た例で平成9年頃に子ども向け遊具として販売されていた安価なレーザーポインターがあります。
目に照射したことで網膜炎を起こしたという報告がありましたが、国民生活センターなどの働きで、販売の自主規制に至り、早期に解決することができました。現在は消費者生活用品安全法によりレーザーポインターはJIS規格のクラス2以下の基準が設けられ、遊具としてのレーザーポインターは販売も禁止されています。
有害な遊具は子どもが手にすることのないよう、保護者も十分注意したいものです。
就学前の幼児は公園で遊ぶことが多く、目に砂が入ったり、友人の指が目には入ったりして、目のケガをすることが珍しくありません。また家庭では洗剤が子どもの目に飛入したり、あやしていた赤ちゃんやペットの爪で子どもの目にケガを負うこともあります。
ホウ酸水で洗眼できれば良いのですが、幼児の洗眼は容易ではありません。異物が確認できるばあいは目薬を多めにさしてやることで、うまく流し出せることもありますが、異物がまぶたの裏に入り込んでしまった場合や、角膜にすり傷を残すこともあり、早めに眼科を受診するのが良いでしょう。
目を打撲して、充血やまぶたの腫れもなく、痛みもなく、見え方にも異常がないような場合でも、目の奥には打撲による異常が起きていることがあります。
打撲により目に強い外力が働くと、眼球の内面を形成している神経の膜、網膜に裂け目(網膜裂孔)ができてしまうことがあります。痛みはありませんが、放っておくと、裂け目の縁から網膜が剥がれ始め、網膜剥離を引き起こし、目に障害を残すこともあります。
目を打撲した際には、一見異常がないようでも眼科を受診しておくのが良いでしょう。
以前運動場の白線に多く用いられてきた石灰は、消石灰(水酸化カルシウム)といって強いアルカリ性のものでした。そのため風で舞い上った石灰が目に入り、子どもたちの目に障害を起こすことも少なくありませんでした。
平成19年秋、文部科学省の指導があり、以後ほとんどの学校ではより安全な炭酸カルシウムが使われるようになりました。ただ炭酸カルシウムといっても弱アルカリ性ですので、目に入ったときには直ぐに目を洗い、早めに眼科で治療を受ける必要があります。
CL使用者の10%は目に障害を起こした経験があるといわれています。
一方スポーツや美容の目的で男女ともに若年者の使用者が増えており、子どもたちの目の健康が心配されています。
どんなCLでも目にとっては異物、調子良く使用していても目の表面に何らかの影響を与えます。CLは正しく使用していてもトラブルを招くことがあり、長時間装用や使用期限を超えての装用、不適切なケアなどにより、目のケガを負いやすくなります。
CL使用者は3ヵ月に1回眼科専門医で定期的に検査を受けましょう。異常を感じたときは装用を中止し、眼科専門医を受診することが大切です。
学校でのケガがもとになって見えなくなるなど、目に障害を残す子どもたちの数は、日本スポーツ振興センターが行っている共済給付制度のデータから知ることができます。
同制度では障害の種類を目のほか、歯、手指、足指、上肢、下肢など12に分類していますが、目と歯の障害が多く、それぞれ25%を占めています。
少子化の影響などもあり、総障害数は減少傾向にありますが、日本全体で毎年100人余りの子どもたちが学校のケガで目に障害を残しています。これはおおよそ14万人に1人の割合となります。
目の障害の原因は、60~70%がスポーツによるもので、遊び・ふざけ合いが10~20%、けんかが10%弱を占めています。
スポーツ種目では野球(ソフトボールを含む)が最も多く、他にサッカー、バドミントン、バスケットボール、ラグビー、テニスなどが続きます。
サッカーの競技人口は野球同様に多いにもかかわらず、重篤な目のケガが野球に比べて少ないのは、ボールの大きさ、硬さによる違いといえます。
またバスケット、ラグビーではボールそのものによるケガよりも、接触プレー、ひじやひざなどによる打撲が原因のケガが多いのが特徴です。
このように、スポーツによるケガが多発している現状を考えると、スポーツ部で活動している子どものことが心配になります。しかし誰だって子どもの頃、転んですり傷を負った経験はあるでしょう。毎日のように走ったり、跳んだりしながら、子どもたちはスポーツの楽しさや、危険なプレーなど、多くの体験を積み重ねながら成長していきます。
あぶないからといって、あれはダメ、これもダメと決めてかからずに、のびのびとスポーツをする子どもたちを温かく見守ってやることが何よりも大切です。
文部科学省関連の日本スポーツ振興センターが、学校や幼稚園、保育園を対象とした災害共済給付制度を設けています。
加入している学校等へは学校管理下(登下校を含む)における児童生徒等の災害(負傷、疾病、障害または死亡)に対して医療費、見舞金などの災害共済給付を行っています。
児童生徒一人当たりの掛け金は義務教育の小中学校では年間920円(沖縄県は460円)で、これを国と学校の設置者、保護者で負担しています。
全国の小中学校の99%以上、高校では98%以上が加入しており、幼稚園は81%、保育園は90%の加入率となっています。
絵 清水 理江
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